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薬剤師研修支援システム

医薬品の品質とは 

2020年11月

国立医薬品食品衛生研究所長 合田幸広

 

   薬剤師の基本的な役目の一つは、適切な品質の医薬品を医療現場に供給することだと考えますので、この項を書いています。

 皆さん、「品質」とは、何だと思いますか。国際標準化機構ISO9000の定義では「本来備わっている特性の集まり/要求事項を満たす程度」となり、医薬品規制調和国際会議(ICH)Q9では「製品,システム又は工程に係る本質的性質の組み合わせが要求事項を満たす程度」となります。

  ここで、要求事項とは何でしょうか。「要求事項を満たす程度」で品質の良し悪しがきまることになる訳ですから、例えばエアコンなら、どれくらいの時間で、どれくらい冷やすことができて、どのような特別な機能を持って、どれくらい耐久性があって、どれくらい故障しないかというのが要求事項で,それを満たす程度の高いものが、品質が良いと言うことになります。それでは、医薬品の場合どうなるでしょうか。要求事項とは,治療効果があり(有効性),副作用が少ない(安全性)と言うのが基本で、それを満たすための要素が、成分とその含量値、純度、均一性、溶出性等となります。要求事項を使用者目線でみると、さらに服用回数が少なくて済むとか、口腔内で崩壊して水なしで飲めるとか、それぞれの製剤特性に由来するものもありますが、基本は有効性と安全性が確保されていることとなります。

 それでは,治療効果があり,副作用が少ないという基本的な要求事項と、その程度は、何で確認されているのでしょうか。化学的合成医薬品の場合、原則、臨床試験(治験)の結果となります。また、その要求事項を満たすための要素、即ち、成分とその含量値、純度、均一性、溶出性等はどのようにして確認されているのでしょうか。これは、治験薬として使用した製剤で確認されているので、治験薬が品質のゴールドスタンダードとなります。医療用医薬品という世界は、常に治験薬というゴールドスタンダードがある特異な世界です。

  ここで注意しなくてはいけないのは、安全性の観点から、効き過ぎてもいけないということで、これが、ユーザー自身で要求事項(どれくらい冷えるか)を制御するエアコンと異なるところとなります。言い換えれば,医薬品の場合,常に,臨床試験で得られたものと同じ臨床効果を示すことができる薬剤が良い品質となります。医薬品の場合、治療学的同等性を保証する再現性が最も重要で、そのために、品質保証がなされているのです。