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薬剤師研修支援システム

冷却器

2013年12月
専務理事 浦山 隆雄

 

 化学実験に冷却器は必須である。

 薬学部の学生実習では、蒸溜のためにリービッヒ冷却器を使った。研究室に配属されてからは、加熱還流のためにジムロート冷却器をよく使った。「冷却器」でネット検索してみると、この2つのほかに、グラハム、アリーン、デュワーと合計5つの冷却器が出てきた。いずれも、目的の達成のために、研究者などが工夫して考案したものだろう。

 私が修士課程1年のある日、研究室に配属されてきてそれほど経たない4年生が、ナス型フラスコの上にジムロート冷却器を立てて加熱還流をしていた。ごく普通の実験であったはずだが、何かの拍子に突沸が始まった。溶媒がどんどん冷却器を駆け上っていく。実験をしていた当人はもちろん、周囲にいた我々も声を上げただけで立ちすくんでいた。

 すぐそれに気づいた先生は、ものも言わずに乾燥機からリービッヒ冷却器を取り出し、ジムロート冷却器の上に乗せた。冷却器の二段重ねである。それとともに、雑巾を濡らして持ってくるよう指示し、受け取って、継ぎ足した冷却器の周囲に巻き付け、その雑巾を手で押さえていた。

 溶媒はどんどん上り、一段目の冷却器を通り過ぎ、二段目の冷却器に達した。我々は、このままでは二段目も突き抜けるのではないかと冷や冷やしながらも、どうすることもできずに見るだけであったが、二段目の半ばに達した頃から溶媒の上昇の勢いが落ち、やがて突沸は終息して、溶媒は元のフラスコに収まった。

 仕事をしていれば、予期せぬことが起こる。

 例えば、誤調剤を防ぐために、機器を揃え、監査体制の充実などの対策をとっていたとしても、患者さんに手渡す薬剤師が、誤った服用方法を説明すれば、それですべては無に帰する。組織的対応はもちろん重要であるが、まずは、個々人である。日進月歩の学問・技術の進歩に追いつくために、日頃の研鑽を積まなければ、どんなに他の工夫をしても無意味である。先の例でいえば、冷却器の二段重ねと濡れ雑巾での冷却という、基本的かつ人的な対応で事故が回避できたのである。

 1回学んだからといって、直ぐに予期せぬことに対応できるようになるというものではない。毎日の積み重ねが重要である。生涯学習は、始めることと同じく、それを継続することが重要である。

 平成6年度に始まった研修認定薬剤師制度において、更新6回目の薬剤師が生まれてきている。努力を続ける薬剤師に賛辞をおくりたい。