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薬剤師研修支援システム

上皿天秤

2013年3月
専務理事 浦山 隆雄

 

 上皿天秤を初めて使ったのは中学生の時だったろうか。

 生徒が使う分銅はプラスチックの箱に入っていたが、先生用のは木製の立派な箱に入っており、生徒用のには入っていないとても小さな分銅もあった。小さいながらも、きらりと光る分銅が印象深かった。

 直示天秤を初めて見たのは大学に入ってからだ。教養部時代ではなく薬学部に移行してからのことのように思う。原理は上皿天秤と同じだが分銅は奥の箱状部に入っていると説明された。試薬を量り取るとき、毎回扉を閉めなければならないのが面倒だった。

 電子天秤は、修士課程1年のときだった。80万円と助手が言っていた。扉もなく、乗せるだけで瞬時に量ることのできる電子天秤は、みんなが使いたがった。

 上皿天秤の原理は簡明である。量りたいものと分銅とが釣り合ったときの分銅の重さが量りたいものの重さである。分銅を乗せたり下ろしたりするのは手動だから手間ではあるが、測定の原理は誰でも理解できる。直示天秤の分銅は秤量皿の後方に隠れているから、どのような分銅なのか見たことはない。上皿天秤と原理は同じと理解はしても、目で見て認知することはできない。電子天秤の原理は、金属の歪みを測定することなのだそうだが、そう説明されても、何となくしか理解できない。

 上皿天秤、直示天秤、電子天秤と、測定はより簡単にできるようになった。30年以上前、教室がやっとのことで買った電子天秤は、小型のものなら今や廉価である。しかし反対に、測定の原理はだんだんわかりにくくなる。上皿天秤ならピンセットでつまんでいた分銅も、直示天秤のを見た人はまずいまい。ましてや、電子天秤となれば、測定原理を正しく説明できる人がどれだけいるだろうか。

 世の中は複雑化し、多くの仕事は簡単明瞭ではなくなってきている。薬剤師の業務も例外ではない。業務が多様化し、今行っている仕事の本質は何なのか、その仕事をする上で何がもっとも大事なことなのかなどということがわかりにくくなってきている。このような中にあっては、本質を見抜く力を醸成することが重要になってくる。

 今、多くの情報が簡単に入手できる。研修のための資材も豊富である。しかし、研修会へ出席して、話を聞いて帰る、だけではもったいない。聞いた話を帰路反芻してみる、聞いた話の中で重要なところを机の前に座って書き出してみる。そんなことの積み重ねが、本質を見抜く力の醸成に繋がるのではないだろうか。

 遙か遠い昔から、学習する人への教えがあった。

 論語の「學而不思則罔 思而不學則殆」である。