2025年5月
公立大学法人静岡県立大学 理事長・学長
今井 康之
私は、静岡県立大学の学長として勤務しています。昨年の4月に静岡県薬剤師会の会長に挨拶にうかがったとき、「貿易赤字を解消するため、日本から輸出できる医薬品を作ってほしい」というお話をいただきました。意外な感じがしましたが、自動車産業とならぶ産業を目指して欲しいということだと思います。医薬品の海外輸出には、研究が不可欠です。
大学の使命に教育と研究があげられます。研究にあたっては、自ら目的を整理して目標を設定し、方法を考え、調査・実験を実行し、得られた成果の意義を主張します。論文発表では、査読者からの意見を論破することが必須です。学生のうちは、査読者と直接英語でやり取りする機会は多くないですが、指導教員を介した間接的な参加、学会発表や卒論発表会で質問に答えるなど、機会をつくることはできます。
もう一つ重要なことは、課題解決能力の養成です。研究では、一般的な法則や原理を追求し、多方面に応用できる成果が求められます。一方、人間の重要な能力として、社会的なスキルがあります。ある個人に、ある時点で起こった特定の問題について、臨機応変に解決する力です。最近、デジタル技術が著しく普及していますが、困りごとをカスタマーセンターに電話しても、自動音声の質問に対して返答を番号で入力することを求められ、あげくの果てに解決しなかった経験をお持ちの方も多いと思います。ある分野に精通した人は、困難を抱える人の問題を即座に整理し、適切なアドバイスができます。定型的で正しい手順を踏む必要のあるデジタルプログラムでは、対処できていません。
現在注目されている人工知能は、統計的な解決法(平均でしかない)をベースとしており、カスタマイズされた作業には対応していません。課題を抱えた人の心理状態を想像し、その人の意図や知識を正しく理解する能力を持つこと。統計的な画一性に頼りすぎず、相談者への共感に基づいて目標を共有し、柔軟で創造的な解決策を探ることが肝心です。大学で自ら研究を実践することは、課題解決能力の醸成にもつながると考えています。
薬剤師研修センターは、薬を必要とする人、一人一人にカスタマイズされた支援を行なうという、まさに人工知能では実現できない薬剤師の専門技能を高めるための仕掛けだと思います。ますます重要性が増しているセンターの持続的な発展と、社会への貢献を期待しております。