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薬剤師研修支援システム

実務実習における緊張感 

2024年10月

和歌山県立医科大学薬学部 教授 太田 茂

 

 私が大学を卒業して薬剤師の免許を取得した直後の事です。その当時私の実家は薬局を営んでいて調剤も行っておりました。私自身は大学で調剤の実習を特に行ってはおらず、実家で調剤の様子を眺めている程度でした。ある日、初老の女性が処方箋を持ってこられて、理由などは忘れてしまいましたが、私が調剤をすることになり、確か風邪薬の調剤を行いました。その時の緊張感は今でも忘れられません。更に調剤後1週間程度はその事が気になり、何度となく薬局に連絡しその初老の女性からの連絡の有無を確認しておりました。今でもごく稀ではありますがその時の様子を夢に見ることがあり、緊張感が蘇ってきます。私が感じていた緊張感は単純に調剤スキルが欠如している状態で医療の現場において対応したために起こっていたことは明白です。私の場合はかなり極端な例だとは思います。それでは最近の学生さんたちはどうでしょうか。OSCE(客観的臨床能力試験)の際、おそらく過度の緊張のため簡単な計算間違いをして桁違いに大量な散剤を測り取ることや、処方監査の際、錠剤の数を数え間違うなど色々とあります。また学生さんたちの背後には評価者が存在していることも緊張感を増していることにつながっていると思われます。これらの事例に対しては事前学修の際に十分な練習を積むことによって、ある程度緊張感を軽減することが可能となるようです。とはいうものの評価者としては、極度に緊張している学生さんを目の当たりにすると、こちらの方も胸が締め付けられる思いになります。毎回なんとかならないものかとも思います。

  現在私どもの大学では最上級生が4年生で、この秋から実務実習に向けての実習準備を行う時期になりました。実務実習に関して学生さんと話をする時や、教員と相談をするたびにあの時の緊張感が頭をよぎります。緊張感を持って実習を行うことは勿論大変重要なことだと思います。実務実習では薬剤師のプロフェッショナリズムや医療における倫理性など臨床現場で学ぶことが極めて重要だと思われる事項が多く存在します。また病棟業務や多職種との連携、在宅訪問など現場でなくては体験できない事項も数多く存在しています。学生さんたちには適切な緊張感を持って現場ならではの臨場感を感じながら学修してもらいたいと切に願っています。