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薬剤師研修支援システム

 30年後の薬剤師に求められる職能 

2023年5月

    公益財団法人日本薬学会 会頭 岩渕好治

 

 今年度より日本薬学会の会頭に就任した岩渕と申します。我が国に薬学という学問も薬剤師という職業もなかった混迷の時代に、今日までの発展の礎を築いた長井長義初代会頭の志を受け止め、病に苦しむ人々、そして人類社会の期待に応えるべく、薬学研究交流ネットワークを拡充して行く所存です。何卒よろしくお願い致します。

 2020年初頭からCOVID-19の感染拡大で世界が大混乱に陥りましたが、その一方でデジタル変革の潮流は勢いを増し、医療の構造と概念に変容をもたらし始めました。このような背景のもと、日本学術会議は「未来の学術振興構想」を策定するための中長期研究戦略の提案を公募しました。日本薬学会は、30年後の創薬研究を構想して「デジタルツインを活用する創薬の実現のためのデジタルツイン創薬フォーラム構想」を提案しました。

 その中で、30年後の世界では、膨大な個人のゲノム情報が低コストかつ短時間で解読され、疾患原因の特定や医薬品への応答性予測、発症リスクと発症時期の予測に利用され、プロテオミクス(蛋白質)、トランスクリプトミクス(RNA)、メタボロミクス(代謝物)、リピドミクス(脂質)、グライコミクス(糖鎖)、さらにはエピゲノミクスなどのオミックス情報と、細胞から個体に至る構造・機能情報がAIによって解析され、量子コンピューター上に超精密デジタルツインが構築されるというビジョンを描きました。このビジョンが具現化されたならば、予防・診断や治療方針・標的の決定と、それに基づくデジタル創薬が一人の患者を対象に行われ、医療においては遠隔AI診断・治療、処方提案・処方支援などを支えるデジタル技術が社会基盤として定着することになり、薬剤師の役割は今以上に多岐にわたり、医療人としての人間性、そして知識と経験が求められることになります。

 日本薬学会は30年後の世界へのパラダイムシフトに向けて、創薬や医療、さらには産業や教育など、薬学関連分野の融合活動を促進して、医療の現場に直結した新しい学術情報、新技術を解説する情報を発信し、今後必須となる情報を的確且つタイムリーに皆様と共有していきます。先生方にはこのような学術活動をご支援いただくと共に積極的にご活用していただきますよう、宜しくお願い申し上げます。