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薬剤師研修支援システム

 日本薬局方と薬剤師 

2022年7月

     一般財団法人医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団 会長 奥田晴宏

 

 研修センターニュースの読者のかたは最近日本薬局方を実際に手に取られた(あるいは厚生労働省/PMDAのサイトにアクセスした)経験をお持ちでしょうか?かつては薬剤師国家試験の試験科目に「日本薬局方」が含まれていたため、年配の方は通則や一般試験法などに時間をかけて取り組まれた記憶をお持ちと思います。

 昨年6月に第18改正日本薬局方(JP18)が告示されましたが、その歴史は明治初頭にまで遡る事ができます。当時は西洋から粗悪な医薬品が輸入され、また処方の異なる医薬品が流通されていたことなどから、薬局方制定の必要性が認識され、明治10年には外国人教師ゲールツ氏らの努力によりオランダ語で日本薬局方がまず起草1)されました。最新の欧米の局方の情報を取り入れるなど、編纂作業はさらに継続し、明治19年に日本薬局方が公布されました(収載医薬品数は468、なお、JP18では2033)。明治21年にはラテン語版も出版され、当時の学問のトレンドとさらに日本政府の国際的理解向上に向けた意気込みを感じます。

 日本薬局方は、我が国で流通する医薬品全般を対象とした通則、製剤(生薬)総則、一般試験法と個別医薬品の規格を収載した「各条」、さらに参考情報から構成されています。医薬品の試験に用いられる日本薬局方標準品は筆者が所属する財団から製造・頒布されています。参考情報には化学合成医薬品の原薬や製剤、バイオ医薬品の品質確保の基本的な考え方などが紹介されています。また昨今医薬品回収の原因に挙げられている不純物や安定性などに関してもその管理の基準や方法が解説されています。

 薬剤師の方々は患者さんから医薬品の不純物などに関して質問を受けることがあるかもしれません。薬剤師の業務が「対物」から「対人」へシフトしていますが、「モノ」としての医薬品に関して疑問に思われることがある場合には、是非一度日本薬局方を開いていただければ幸いです。「モノ」にも強い薬剤師になっていただくことを期待しています。

 

1)国立医薬品食品衛生研究所の多目的スペースの壁面に直筆の本草稿の一部(序文)が描かれている(同研究所パンフレット(https://www.nihs.go.jp/nihs/leaflet/nihs_pamphlet.pdf)参照)。