2015年9月
国立がん研究センター
理事長 堀田知光
欧米では薬事承認または公的保険等で使用が認められているが、わが国ではいずれの疾患にも承認が得られていない薬剤を未承認薬といい、いずれかの疾患に適応承認があるものの、有効性が期待される他の疾患や異なる用法・用量の承認に至っていない薬剤を適応外薬という。こうした欧米との承認までの時間差をドラッグ・ラグと称し、その内訳として開発ラグと審査ラグがある。約10年前までは新有効成分含有医薬品(新薬)の承認までの日米間のラグは約2.5年であった。国は、試験活性化計画をはじめ医薬品医療機器総合機構(PMDA)の体制強化、臨床研究中核病院の整備、医療上の必要性の高い医薬品の開発要請などを図ることによって平成24年度には、審査ラグはほぼ解消し、申請ラグは0.3年になったと報告している。今後は、先駆け審査指定制度や国際共同治験(平成25年度は治験届け出数の28.1%)をさらに推進することによって申請ラグの解消が加速されることが期待される。
一方、医療現場でのニーズが高いにもかかわらず、希少疾患や小児領域など開発の困難さや市場性が見込めないなどの理由で企業治験が進みにくいアンメット・メディカルニーズの薬剤開発は遅れがちである。こうした状態を解消するために、厚生労働省は平成22年2月に「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会」組織して問題解決にあたってきた。本検討会では欧米6か国(米、英、独、仏、加、豪)のいずれかで承認されている未承認薬もしくは同6か国のいずれかで承認もしくは広く用いられていることを要件として、学会等から要望を集め、医療上の必要性が高いと判断された品目について製薬企業へ開発要請をかけることによってラグの解消を図ることとした。第1回要望では重複等を整理した374件が評価対象となり、165件は必要性が高いとして開発要請がなされ、現時点で94件が承認に至っている。その後、平成23年の第2回要望290件のうち86件、平成25年の第3回要望90件のうち10件に対して平成27年7月現在で開発要請がかけられている。このように回ごとに要望件数が減少していることは現場のニーズが満たされつつあるものと評価できる。
しかし、現状を喜んでばかりはいられない。希少疾患や小児疾患への対応にはなお課題は多く、国内に開発企業がないことや医師主導治験に頼らざるを得ない場合が少なくない。また、新薬についても、日本発の開発製品が世界市場をリードしない限り、新たなラグが発生するリスクは常にある。