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薬剤師研修支援システム

生涯をかけて学び続けた人 

2015年6月
日本生薬学会 会長 水上 元 

 

 私の勤務先である高知県立牧野植物園は、日本における近代植物学の父とも言うべき牧野富太郎博士を顕彰して設立されています。牧野博士は1862年(文久2年)4月24日(坂本龍馬が脱藩した1カ月後のことです)に現在の高知県高岡郡佐川町に生まれ、1957年(昭和32年)に94歳で亡くなるまで、その生涯を植物分類学の研究にささげました。博士の業績の中でとりわけ有名なのは、現在でも研究者のみならず植物愛好家にとっても必携の書として発行されている『牧野日本植物図鑑』を編纂し、刊行したことです。この図鑑の初版は1940年(昭和15年)に発行されています。牧野植物園には博士が生涯をかけて蒐集した4万5千冊からなる古今東西の書籍を牧野文庫として保有していますが、その中の1冊に、牧野博士自身が使っていた牧野植物図鑑の初版本があります。この図鑑を開くと、全編にわたって植物図にも解説にも赤色でびっしりと修正が書き加えられています。この図鑑が出版されたのは博士が78歳の時ですので、新しい研究成果も踏まえて図鑑の改訂作業を行っていたのは80歳前後のことだと思われます。私は、この初版本を開くたびに、いわば生涯をかけて学び直しを続けた研究者の姿が浮かびあがってくるようで、強い畏敬の念を覚えざるを得ません。

 牧野博士がこのように生涯をかけて「学び直し」を続けたのは、何よりも植物を愛したことに加えて、我が国の植物学研究の水準を押し上げたい、そして植物の大切さを一般の人々に伝えたいという強い使命感に基づくものであったと思います。薬剤師の方々(私自身もその一員ですが)が生涯研修に取り組まれる動機としては、新しい知識・技術を学びたいという探究心、キャリアアップにつなげたいという向上心など多様なものがあるでしょうが、何よりも国民の健康を支え、命を守るという強い使命感に支えられたものであってほしいと思います。