2012年5月
日本小児臨床薬理学会運営委員長(香川大学小児科教授) 伊藤 進
我々小児科医が、小児の薬物療法をする時に、使用しようとする薬物の添付文書にその患児に対する適応症や用法・用量が記載されていないことが多い。このような状況においても、小児科医は患児に対して有効で安全な治療を行なわなければならない。この現状を少しでも良くするために、小児科学会薬事委員会、小児関連学会の薬事委員や小児臨床薬理学会員などが、厚生労働省、医薬品医療機器総合機構、日本医師会治験促進センターや製薬企業などの協力を得て改善に努力しているところである。
小児の薬物療法はtherapeutic orphan(治療における見捨てられた領域)と言われて約50年経過し、この言葉が死語になるように我々小児に関係する医療人は努力することが必須である。その基礎作りには小児科に関係する医療人に対する小児薬物療法の教育が重要で、一般社会への啓発も必要である。医学部、歯学部や薬学部の教育において、小児薬物療法の教育が殆どなされていなのが現状である。そして、成長と発達(発育)が学問の根幹をなす小児科学においても、発達薬理学として重要な位置を占めるが、卒前・卒後の教育を考えても十分になされているとは言えない。
このたび、日本薬剤師研修センターと日本小児臨床薬理学会が協力して、薬学部の卒後教育にあたると考えられる小児薬物療法認定薬剤師制度を発足させたことは画期的なことである。小児薬物療法認定薬剤師制度については、2009年の第36回小児臨床薬理学会において、「小児薬物療法の新展開を目指した薬剤師のあり方と期待」というテーマで、昭和大学の村山純一郎教授と国立成育医療研究センターの石川洋一先生が企画立案されたシンポジウムから始まったと記憶している。そこで、「小児薬物療法認定薬剤師(仮称)の確立に向けて:認定要件とカリキュラムの提案」の発表がなされた。有効で安全な小児薬物療法を行なう上で、小児科医とそれを担う薬剤師が車の両輪として動かないと機能しない。その意味で、小児薬物療法の専門家としての小児薬物療法認定薬剤師が生まれるのは我々小児臨床薬理に携わる小児科医としては励みになり、小児科医側も小児薬物療法の専門家としての小児科医の育成に努力しないといけないと思っている。
小児薬物療法での私の私見を述べる。小児薬物療法で一番困難なのは用法・用量の設定である。薬物動態が生後の適応現象のためダイナミックに変動する新生児に対して、用法・用量を決める一般的な方法が見つかれば、小児全般においてその設定が可能になると思い、私はこの時期の薬物動態の研究を行っている。小児薬物療法に興味を持たれている薬剤師の方々に、小児薬物療法の中の新生児薬物療法にも目を向けていただきたいと思う。
最後に、現状の日本の病院においては、経営の視点が重視され、その影響は大学病院にも表れている。小児薬物療法を含め小児医療が採算性の悪い分野であることは、否定することは出来ない。しかし、「こども」がいなければ、未来がないのは事実である。そのために、我々小児に関係する医療人は、採算性が悪くても「こども」にとって最良の医療を提供し、「こども」に未来を託す義務があると私は思っている。