2012年2月
武庫川女子大学薬学部 学部長・教授 市川 厚
本年4月には、6年制薬学部(薬学科)卒業の初めての薬剤師が誕生するとともに、その卒業生や社会人薬剤師を受け入れる4年制博士課程がスタートする。文部科学省の薬学系人材養成の在り方に関する検討会の報告では4年制博士課程の目的は「医療の現場における臨床的な課題を対象とする研究領域を中心とした高度な専門性や優れた研究能力を有する薬剤師などの養成に重点を置いた臨床・医療薬学に関する研究を行う」と明示された。この博士課程と同時に、4年制薬学科を基礎とする5年制大学院の後期博士課程(3年)が設置される。新しい4年制博士課程と後期博士課程とは、その設置目的、理念、方略、養成する人材像が異なるものであるが、そのことを受験生や医療現場、行政、企業などの受け入れ側に十分な理解を得る努力が必要である。4年制博士課程修了者に期待される人物像として、ファーマシスト・サイエンティストが提唱されている。薬剤師の専門性に加えて、科学者としの専門性を兼ね備えている臨床薬剤師としてイメージされる。臨床での未知の課題を研究する博士過程の院生が活躍する。課題の研究遂行には、施設の薬剤師および医療施設・医師等の医療スタッフとの密接な共同研究が不可欠である。附属の大学病院を有さない大学の院生は研究指導体制において工夫が必要である。もっとも重要なことは、学習成果である学位論文の質保障の方法である。臨床・医療系のみならず基礎系の研究者、医学研究者も学位審査に参加できる体制が望ましい。
近年の医療(科学)技術の高度化は、ますます基礎研究と応用研究との境を不明瞭なものとしている。しかし、科学には応用研究の分野があるのではなく、基礎研究を突き詰めたゴールに応用研究が自然に生まれる。欧米諸国では、基礎研究を大切にする研究者の姿勢は、国や国民から支持されている。一方、日本の社会の科学に対する姿勢が、基礎研究を重視するのではなく、産業や医療に直結する応用研究を重視する傾向がある。そのため、基礎から進めようとする精神が研究者に欠けてきているように思う。ファーマシスト・サイエンティストの研究において、応用研究の追求にかまけて、エビデンスに基づく基礎研究がおろそかにならないことを祈る。どのようなことも、基礎が大事である。基礎学問を樹木の幹に例えると、応用研究は幹に自然につく枝葉であり、どんなに樹木が老いても、太い幹の枝葉は永年にわたって自然につく。永続的な博士研究者の活躍を期待する。